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由居庵(ゆいあん)

 由居庵(ゆいあん)
 
 
 傾斜地の候補地をいくつか一緒に巡りながら、「今住んでいるマンションからは眺望が開けているので、そういう場所がいいんです」という話を建主さんがされていたのが印象に残っています。今回の敷地候補が出たときに、同時に造成され、売りに出ていた手前の区画との比較になりました。旗竿状の敷地のため、敷地面積のわりに実際に建てられるエリアは限られる。それに風致のセットバックが義務づけられ、高度斜線も掛かるため、それで建築可能な領域は平面的にも立体的にも制限されてしまう。それでも奥の敷地が良さそうだと感じたのは、キャラクターの違う2つのフロアがつくれると思ったからです。ベッドは置かずに布団で、気分で寝る場所を決めたい。自分たちの居場所も時間帯や気候、気分に合わせて変えたい。そんなご要望もあったため、2階は設計中から「上の部屋」と名付けられていた。
 そして、1階にはキッチンユニット等があるので一応LDKと書いてはいたけれども、ここも意味的には「下の部屋」だった。
 
下の部屋は敷地選定時から廻りを生け垣で囲うことを考えていました。風致条例である基準以上植栽をしなくてはいけないという事もあるけれども、プライバシーを守り、向かいにあるマンションのタイル外壁に向き合うことを緩和するため。そして、静けさを獲得するためにです。法的な縛りで外形ボリュームがある程度決まってくるなか、ここで考えていたのは「気積」をどうコントロールするのかということです。
屋根形状にそって天井を設け、2階のボリュームを確保。軒先は絞りながら1階の気積を取るための断面検討を進めた結果、1階の天井高は2.7m、2階の天井高は2.0〜3.3mを確保しています。
 
さらに大きめの吹抜けで上下の空間をつなぎ、単純なboxのなかに相互貫入していくような「抜け」をつくろうとしています。「普通」だと認識しているスケール感を少し揺さぶることで、床面積の大きさだけでは測れない空間認知が生まれる。ここで意識していたのは広さではなく拡がりです。高く設定した2階床レベルのおかげで前のマンション越しに多摩川方向への眺望(パノラマ)が抜けました。晴れていると遠くに富士山も望むことができます。これから定年を迎えられるご夫婦のための住宅、設計初期に意識していたのは確かな質感と静けさでしたが、いくつかのキーワードに導かれていくうちに「動きがあり、空に開かれ、使い方に自由度のある」空間になっていきました。『由居庵』という名称は、建て主さんが自由に居場所を決めながら過ごせる場所という意味を込めています。 

(廣部剛司)

 
 
 
 
 
建築概要
名称  :由居庵(ゆいあん)
所在地 :東京都世田谷区
主要用途:専用住宅
主体構造:木造
規模  :地上2階
敷地面積:136.69㎡(41.27坪)
建築面積:50.33㎡(15.22坪)
延床面積:92.26㎡(27.86坪)
竣工  : 2014年12月
 
施工  :光正工務店(ASJ)

 
 傾斜地の候補地をいくつか一緒に巡りながら、「今住んでいるマンションからは眺望が開けているので、そういう場所がいいんです」という話を建主さんがされていたのが印象に残っています。今回の敷地候補が出たときに、同時に造成され、売りに出ていた手前の区画との比較になりました。旗竿状の敷地のため、敷地面積のわりに実際に建てられるエリアは限られる。それに風致のセットバックが義務づけられ、高度斜線も掛かるため、それで建築可能な領域は平面的にも立体的にも制限されてしまう。それでも奥の敷地が良さそうだと感じたのは、キャラクターの違う2つのフロアがつくれると思ったからです。ベッドは置かずに布団で、気分で寝る場所を決めたい。自分たちの居場所も時間帯や気候、気分に合わせて変えたい。そんなご要望もあったため、2階は設計中から「上の部屋」と名付けられていた。
 そして、1階にはキッチンユニット等があるので一応LDKと書いてはいたけれども、ここも意味的には「下の部屋」だった。
 
下の部屋は敷地選定時から廻りを生け垣で囲うことを考えていました。風致条例である基準以上植栽をしなくてはいけないという事もあるけれども、プライバシーを守り、向かいにあるマンションのタイル外壁に向き合うことを緩和するため。そして、静けさを獲得するためにです。法的な縛りで外形ボリュームがある程度決まってくるなか、ここで考えていたのは「気積」をどうコントロールするのかということです。
屋根形状にそって天井を設け、2階のボリュームを確保。軒先は絞りながら1階の気積を取るための断面検討を進めた結果、1階の天井高は2.7m、2階の天井高は2.0〜3.3mを確保しています。
 
さらに大きめの吹抜けで上下の空間をつなぎ、単純なboxのなかに相互貫入していくような「抜け」をつくろうとしています。「普通」だと認識しているスケール感を少し揺さぶることで、床面積の大きさだけでは測れない空間認知が生まれる。ここで意識していたのは広さではなく拡がりです。高く設定した2階床レベルのおかげで前のマンション越しに多摩川方向への眺望(パノラマ)が抜けました。晴れていると遠くに富士山も望むことができます。これから定年を迎えられるご夫婦のための住宅、設計初期に意識していたのは確かな質感と静けさでしたが、いくつかのキーワードに導かれていくうちに「動きがあり、空に開かれ、使い方に自由度のある」空間になっていきました。『由居庵』という名称は、建て主さんが自由に居場所を決めながら過ごせる場所という意味を込めています。 

(廣部剛司)

 
 
 
 
 
建築概要
名称  :由居庵(ゆいあん)
所在地 :東京都世田谷区
主要用途:専用住宅
主体構造:木造
規模  :地上2階
敷地面積:136.69㎡(41.27坪)
建築面積:50.33㎡(15.22坪)
延床面積:92.26㎡(27.86坪)
竣工  : 2014年12月
 
施工  :光正工務店(ASJ)

Photo
@Koichi Torimura