Studio M
ゆるやかに繋がる居場所
牧歌的な空気が残っているということが魅力で、まずはこのエリアに家族で引っ越し、アパート暮らしをしながらじっくりと敷地を探したクライアントからの強い要望は、縁側のある住宅だった。
そこで外に向けていわゆる縁側をつくる検討をかなりやったけれど、敷地のスケールや内部に入れ込んでいく内容を考えていくと、どうもあまり効果的な解決には結びつかなかった。そこで、「縁側」だから感じることのできる要素とは何だろうか?というところに改めて立ち返ってみることにした。そこには外部環境と内部との境界領域であること、屋根で守られていること、適度な段差があって座れることなどが浮かび上がってきた。
もう一つ、大きな要素としてあったのは冬は暖房をするけれども、夏はクーラーを使わないという条件だった。打合に伺った真夏のご自宅でも、かなり暑い日だったがクーラーは使わずに過ごされていたのが強く印象に残っている。そのため、夏の南風を意識して南北に通風をとることは当然として、これを断面的にも展開できないだろうかと検討を始めた。そしてもう一つ、(この住宅で特殊な要素があるとすればここなのだが)ドラム入りのバンド練習が可能なスタジオを設けることだった。
この一見バラバラな設計条件は結果として相互に絡みながら、ひとつのプランへと収束していくことになる。まず、冬の暖房については深夜電力で基礎下の土に蓄熱をして日中は徐々に放熱する方式の土壌蓄熱式暖房(サーマスラブ)を採用することなった。ワンシーズンずっとゆるやかな暖かさで24時間暖房されている環境を低いランニングコストで作り出すことができるが、平面計画上は電気パネルが設置されている部分の上部に主として過ごす居室がないと効果が薄い。
これが地下スタジオの配置を決めていくこととなった。スタジオはまわりの土を「遮音材」として活用し、それ以外のエリアはサーマスラブの「蓄熱材」として利用する。だから水廻りなど一時的な使用になるエリアの下にスタジオを配置している。また、主として夏に風を抜く方法として、上下に抜けた空間をつくり、高低差で生まれる温度差を利用して風のない日でもある程度空気を動かしたいと考えた。リビングに大きな吹き抜けを設ける、というスケールは確保できない条件でどう「抜け」をつくるか?という時に最初の条件である縁側がつながった。既成概念にある縁側と発想を変えて、家のど真ん中に縁側的な場所を挿入しようと考えたのだ。
「エンガワ」と少し呼び名を変えたその場は、家の中にある「外部」の扱いで上部がFRPグレーチングの床となっている。これによって光を導き、風を上下に抜く場所を最小限の面積で得ることができた。上部の窓が大きいため、夏場は階下よりも気温が上がり、窓をあけておくと上昇気流で負圧が生じ空気が動く。反対に冬は熱を貯め込んで両側の居室にも暖かさを届ける。水廻りが平屋となっているのも、南からの陽光を2階居室に届けるためと大きめの洗濯物が干せるテラスをつくる条件が複合的にそうさせている。そしてあえて「座る」ことのできる段差を両側のLDKとの間に設けている。LDKの面積はミニマルなサイズだが、この部分の余白が+αのアクティビティを受け入れるゆとりを生み出す。そして、外部に対しても「同じような」スタンスで座れる場所をつくっている。コンクリートで打設されたベンチは引き込みで納めたサッシュとの相乗効果で、内部のエンガワと同じような関係性で外部と向き合うことを可能にしている。
「エンガワ」の部分と地下にアクセスするための階段スペース(下部は書斎として利用される)が結果としてLDKを取り巻く「外」のように作用することから、部屋とそれらの外部的要素を見付寸法は最小限で黒く強調されたフレームでトリミングしてエリアが連続していくリズムをつくりだす。そして、外部の窓に対しても同じ作法でフレーミングすることで、その境界線が内部との境界であるのか、外部との境界であるのかということの差を曖昧にしていく。それが、守られつつも自然の一部にゆるやかに繋がるような居場所をつくることにつながっている。
建築概要
名称 :Studio M
所在地 :千葉県市川市
主要用途:専用住宅
主体構造:木造・一部RC造(地下)
規模 :地上2階 地下1階
敷地面積:121.23㎡(36.74坪)
建築面積: 60.51㎡(18.34坪)
延床面積:116.86㎡(35.41坪)
竣工 :2012年9月
構造設計:エスフォルム/大内彰
施工 :航洋建設
ゆるやかに繋がる居場所
牧歌的な空気が残っているということが魅力で、まずはこのエリアに家族で引っ越し、アパート暮らしをしながらじっくりと敷地を探したクライアントからの強い要望は、縁側のある住宅だった。
そこで外に向けていわゆる縁側をつくる検討をかなりやったけれど、敷地のスケールや内部に入れ込んでいく内容を考えていくと、どうもあまり効果的な解決には結びつかなかった。そこで、「縁側」だから感じることのできる要素とは何だろうか?というところに改めて立ち返ってみることにした。そこには外部環境と内部との境界領域であること、屋根で守られていること、適度な段差があって座れることなどが浮かび上がってきた。
もう一つ、大きな要素としてあったのは冬は暖房をするけれども、夏はクーラーを使わないという条件だった。打合に伺った真夏のご自宅でも、かなり暑い日だったがクーラーは使わずに過ごされていたのが強く印象に残っている。そのため、夏の南風を意識して南北に通風をとることは当然として、これを断面的にも展開できないだろうかと検討を始めた。そしてもう一つ、(この住宅で特殊な要素があるとすればここなのだが)ドラム入りのバンド練習が可能なスタジオを設けることだった。
この一見バラバラな設計条件は結果として相互に絡みながら、ひとつのプランへと収束していくことになる。まず、冬の暖房については深夜電力で基礎下の土に蓄熱をして日中は徐々に放熱する方式の土壌蓄熱式暖房(サーマスラブ)を採用することなった。ワンシーズンずっとゆるやかな暖かさで24時間暖房されている環境を低いランニングコストで作り出すことができるが、平面計画上は電気パネルが設置されている部分の上部に主として過ごす居室がないと効果が薄い。
これが地下スタジオの配置を決めていくこととなった。スタジオはまわりの土を「遮音材」として活用し、それ以外のエリアはサーマスラブの「蓄熱材」として利用する。だから水廻りなど一時的な使用になるエリアの下にスタジオを配置している。また、主として夏に風を抜く方法として、上下に抜けた空間をつくり、高低差で生まれる温度差を利用して風のない日でもある程度空気を動かしたいと考えた。リビングに大きな吹き抜けを設ける、というスケールは確保できない条件でどう「抜け」をつくるか?という時に最初の条件である縁側がつながった。既成概念にある縁側と発想を変えて、家のど真ん中に縁側的な場所を挿入しようと考えたのだ。
「エンガワ」と少し呼び名を変えたその場は、家の中にある「外部」の扱いで上部がFRPグレーチングの床となっている。これによって光を導き、風を上下に抜く場所を最小限の面積で得ることができた。上部の窓が大きいため、夏場は階下よりも気温が上がり、窓をあけておくと上昇気流で負圧が生じ空気が動く。反対に冬は熱を貯め込んで両側の居室にも暖かさを届ける。水廻りが平屋となっているのも、南からの陽光を2階居室に届けるためと大きめの洗濯物が干せるテラスをつくる条件が複合的にそうさせている。そしてあえて「座る」ことのできる段差を両側のLDKとの間に設けている。LDKの面積はミニマルなサイズだが、この部分の余白が+αのアクティビティを受け入れるゆとりを生み出す。そして、外部に対しても「同じような」スタンスで座れる場所をつくっている。コンクリートで打設されたベンチは引き込みで納めたサッシュとの相乗効果で、内部のエンガワと同じような関係性で外部と向き合うことを可能にしている。
「エンガワ」の部分と地下にアクセスするための階段スペース(下部は書斎として利用される)が結果としてLDKを取り巻く「外」のように作用することから、部屋とそれらの外部的要素を見付寸法は最小限で黒く強調されたフレームでトリミングしてエリアが連続していくリズムをつくりだす。そして、外部の窓に対しても同じ作法でフレーミングすることで、その境界線が内部との境界であるのか、外部との境界であるのかということの差を曖昧にしていく。それが、守られつつも自然の一部にゆるやかに繋がるような居場所をつくることにつながっている。
建築概要
名称 :Studio M
所在地 :千葉県市川市
主要用途:専用住宅
主体構造:木造・一部RC造(地下)
規模 :地上2階 地下1階
敷地面積:121.23㎡(36.74坪)
建築面積: 60.51㎡(18.34坪)
延床面積:116.86㎡(35.41坪)
竣工 :2012年9月
構造設計:エスフォルム/大内彰
施工 :航洋建設
Photo
@Koichi Torimura
process