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Sentimento MARK

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「20坪くらいの小さな店舗なのですが…」
 岐阜からお電話をいただいた2日後に、オーナーご夫妻と私の事務所でお目にかかった。そして、そのまた2日後に今度は自分が岐阜の現場にいた。遠い現場であっても、必要としてもらえれば可能な限りお受けしようと思っている。実は独立当初は、すぐに現場に行ける範囲で仕事をしたいと思っていたから、このご夫妻の熱意が可能性の扉を1つ開けてくれたのだと思っている。
 
 現場は築年数の経つRC建築の1階。訪れたときは既に解体が終わってスケルトンの状態。ここにこだわりのセレクトショップをオープンするという計画だった。イタリアまで直に買い付けに行かれるというオーナーさんは「自身の目にかなったものだけを置く」ということの他に、もうひとつ実現したいこだわりがあった。それはヨーロッパのショップのように<サロン>を設けるということだった。お気に入りのものを探すべくこのお店を選び、じっくりと商品を購入してくれたお客様を「立たせたまま会計をして帰してしまう」のではなく、お茶を飲んで頂きながらしばしお話をしてその間にお会計。ゆっくりとした時間を味わって頂くことも「買い物」という行為の一部にしたい、という強い思いからだった。かくして、20坪の中にサロンを内包した店舗のデザインをすることとなった。
 
 現地を見に行ったときからオーナーさんにお話ししていたことがある。それは<フェイクは使わない>ということだ。店舗デザインはその一般的な周期の速さもあって、本物ではないけれどそれなりには見える材料を使うことが多い。ところが、そういう材料は注意深い視線には耐えられないし、時間経過を味方につけることができない。この設計をお受けしたときも「数年持てば良い」空間をつくるつもりはなかった。材料がいつまでも新品を保つと言うことではなく、時と共に美しく老いていく(エイジング)素材を使いたいと思ったのだ。「古美る」空間にしましょう…というお話をしたように記憶している。
  もちろん、店舗は事業としての設備投資だから工事費は限られる。それでも様々な素材を安価に入手できる方法を探り、バランスさせながらも妥協することなく積み上げていくことができた。床には2種類の天然石を用いている。黒に近い粘板岩(スレート)と明るいベージュのライムストーンだ。
  店に入るには大きな扉をあける。自動ドアは考えなかった。その作動音がふさわしくないこともあるけれど、ここでは扉を開ける、という小さな決意があったほうが良いように思えたからだ。そして、ドアが開くと内部の音環境がフッと変わるから無粋なチャイムなどをつけなくても、来客は店主に伝わるのだ。このドア以外は徹底的にサッシュのフレームを消して強化ガラスを納め、存在を主張させないようにしていった。
 
 ドアを開けると正面に迎えてくれるのは<プロムナード>と呼んでいる空間。白いライムストーンが敷かれ、贅沢にも商品が置かれない場だ。先に行くほど段々と狭まっていくことで距離感を深めている。突き当たりには光を放つガラスブロックの壁、シルエットとして見えるミースのバルセロナチェア… ここでは「ハレの気持ち」を高めるために建築でできることをしようとしている。商品が置かれているゾーンと<プロムナード>を分けているのは揺らぎを持つピッチで並べたスクリーン。わずか20mmほどの厚みで空間をゆるやかに仕切っているのだ。正面に見えるガラスブロックはS字にカーブしている。この後ろにはストックヤードを中心としたバックヤードが配置されていて、あえて蛍光灯の光源としている。そのおかげで白く光る壁と実用的なバックヤードを両立しながら100mmの薄さで店舗との間を隔てることが可能となった。
 
 S字のガラスブロックはサロンのスペースを包み込んでいる。ジャラの無垢材を仕立てた存在感のあるテーブルとともにル・コルビュジエのソファを置いた。これは暗黙のうちに店主がミースのバルセロナチェアに座り、ゲストがコルビュジエに座ることを導くことで、ゲストは道路から丸見えにならないようにするためのしつらえでもある。
  この文章を書いているのは2012年の4月。ほんの少し前にオーナーさんから「無事10周年を迎えることができました」という嬉しいご連絡をいただいた。
 
 これを機に10年経ってどう「古美た」空間になったのかを確認しに伺おうかと思っている。
 
 

 (廣部剛司)

 
 
 
 
Sentimento MARK
センティメントマーク
 
場所:岐阜市金宝町1-5 SUNWARDビル 1F
TEL:058-266-7224
 
 
竣工:2002年4月
施工:徳倉建設+古河総合設備

 
「20坪くらいの小さな店舗なのですが…」
 岐阜からお電話をいただいた2日後に、オーナーご夫妻と私の事務所でお目にかかった。そして、そのまた2日後に今度は自分が岐阜の現場にいた。遠い現場であっても、必要としてもらえれば可能な限りお受けしようと思っている。実は独立当初は、すぐに現場に行ける範囲で仕事をしたいと思っていたから、このご夫妻の熱意が可能性の扉を1つ開けてくれたのだと思っている。
 
 現場は築年数の経つRC建築の1階。訪れたときは既に解体が終わってスケルトンの状態。ここにこだわりのセレクトショップをオープンするという計画だった。イタリアまで直に買い付けに行かれるというオーナーさんは「自身の目にかなったものだけを置く」ということの他に、もうひとつ実現したいこだわりがあった。それはヨーロッパのショップのように<サロン>を設けるということだった。お気に入りのものを探すべくこのお店を選び、じっくりと商品を購入してくれたお客様を「立たせたまま会計をして帰してしまう」のではなく、お茶を飲んで頂きながらしばしお話をしてその間にお会計。ゆっくりとした時間を味わって頂くことも「買い物」という行為の一部にしたい、という強い思いからだった。かくして、20坪の中にサロンを内包した店舗のデザインをすることとなった。
 
 現地を見に行ったときからオーナーさんにお話ししていたことがある。それは<フェイクは使わない>ということだ。店舗デザインはその一般的な周期の速さもあって、本物ではないけれどそれなりには見える材料を使うことが多い。ところが、そういう材料は注意深い視線には耐えられないし、時間経過を味方につけることができない。この設計をお受けしたときも「数年持てば良い」空間をつくるつもりはなかった。材料がいつまでも新品を保つと言うことではなく、時と共に美しく老いていく(エイジング)素材を使いたいと思ったのだ。「古美る」空間にしましょう…というお話をしたように記憶している。
  もちろん、店舗は事業としての設備投資だから工事費は限られる。それでも様々な素材を安価に入手できる方法を探り、バランスさせながらも妥協することなく積み上げていくことができた。床には2種類の天然石を用いている。黒に近い粘板岩(スレート)と明るいベージュのライムストーンだ。
  店に入るには大きな扉をあける。自動ドアは考えなかった。その作動音がふさわしくないこともあるけれど、ここでは扉を開ける、という小さな決意があったほうが良いように思えたからだ。そして、ドアが開くと内部の音環境がフッと変わるから無粋なチャイムなどをつけなくても、来客は店主に伝わるのだ。このドア以外は徹底的にサッシュのフレームを消して強化ガラスを納め、存在を主張させないようにしていった。
 
 ドアを開けると正面に迎えてくれるのは<プロムナード>と呼んでいる空間。白いライムストーンが敷かれ、贅沢にも商品が置かれない場だ。先に行くほど段々と狭まっていくことで距離感を深めている。突き当たりには光を放つガラスブロックの壁、シルエットとして見えるミースのバルセロナチェア… ここでは「ハレの気持ち」を高めるために建築でできることをしようとしている。商品が置かれているゾーンと<プロムナード>を分けているのは揺らぎを持つピッチで並べたスクリーン。わずか20mmほどの厚みで空間をゆるやかに仕切っているのだ。正面に見えるガラスブロックはS字にカーブしている。この後ろにはストックヤードを中心としたバックヤードが配置されていて、あえて蛍光灯の光源としている。そのおかげで白く光る壁と実用的なバックヤードを両立しながら100mmの薄さで店舗との間を隔てることが可能となった。
 
 S字のガラスブロックはサロンのスペースを包み込んでいる。ジャラの無垢材を仕立てた存在感のあるテーブルとともにル・コルビュジエのソファを置いた。これは暗黙のうちに店主がミースのバルセロナチェアに座り、ゲストがコルビュジエに座ることを導くことで、ゲストは道路から丸見えにならないようにするためのしつらえでもある。
  この文章を書いているのは2012年の4月。ほんの少し前にオーナーさんから「無事10周年を迎えることができました」という嬉しいご連絡をいただいた。
 
 これを機に10年経ってどう「古美た」空間になったのかを確認しに伺おうかと思っている。
 
 

 (廣部剛司)

 
 
 
 
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場所:岐阜市金宝町1-5 SUNWARDビル 1F
TEL:058-266-7224
 
 
竣工:2002年4月
施工:徳倉建設+古河総合設備

Photo
@Nacasa & Partners

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