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桜並木の家
中庭   眺望   坪庭

 
桜並木の家
 
 
 桜並木のあるところは、以前河川だったところの可能性が高い。この敷地をクライアントと見に伺ったときから分かっていたことだった。それでもこのロケーションの素晴らしさを生活空間の一部にしたい、という強い意志がプロジェクトを前に進めた。案の定、着工後に地下を掘り下げていくなかで大量の水が出てきた。暗渠になっていても地下水脈が生きているというのは凄いことだと感じる一方、なかなか困難な工事となった。水に対してはグルリと地下をくるむように防水をして止め、河川特有の地盤に対しては杭を打つことで安全性を確保していった。
 
 プランニング条件としての難しさは、限られた敷地に日常用とスポーツ走行を楽しむための車、と2台の車をおさめる必要があったことが特徴的だった。そのため、2階の床までをRCでつくり、2方向にオーバーハングさせることで上階の面積は最大限取りながら2台分のガレージを確保することができた。車のサイズというのは平面図に落としてみると思いのほか大きく感じるものだ。それを満たしながら必要な生活空間をつくるには、水が出ることが分かっていても地下工事が必須だったのだ。
 
 最初に桜並木を前にしばらく佇みながら敷地の様子を観察していて気付いたことは、ここがかなり人通りの多い生活道路だと言うことだった。桜の季節には花を愛でながらも、足早に駅に向かって歩いて行く。桜と共にある生活を実現するためには、この通過する人びととの距離感が大きなポイントになるとその時感じたのだ。
 
 一本の桜を愛でるのと、並木状に連続していく桜に向き合うのでは設計の方向が違う。前者はその桜に集中するようにプランニングをしていくことになるけれども、並木状の桜はその「連続性」をどう建築に取り込むかというところがポイントになる。だから水平に連続していく桜の景色を途切れることなく感じていられる方法を探ろうと思った。
 
 道路側からみると開口部の少ない住宅に見える。しかし、道路と反対側(東側)には南北に抜けた坪庭がつくられていて、大きな開口部がそれに面している。そして、2階は目線よりも少し上になる場所までが壁的な要素でつくられ、屋根との間に大きなガラスがはめ込まれているのだ。この断面的な検討の結果、前面道路を行き交う人びとと視線を合わせることなく、生活の一部に常に「連続していく桜並木」を取り込んでいくことが可能となった。桜並木は西側に面しているが、落葉樹である事の恩恵を受けて、夏は葉で覆われることで西日を遮り、冬は葉が落ちることで日没前に貴重な暖かさをもたらしてくれる。熱環境的な意味でも桜並木は大切な設計要素だった。たとえば桜の季節には仲間が集い、美しい花を眺めながら楽しいひとときを過ごす。普段は家族で使えればいいダイニングは、状況によってかなりの人数を受け入れる必要があった。
 
 そこで、バッファーとしての和室を配置した。人数が増えていくとエクステンションできるように製作したテーブルを上げ、さらに人が増えるときは和室にローテーブルを置くことで、一つの食卓がどんどん桜並木の方へ延長していく。そして、開閉式の障子を閉めるとゲスト用の寝室としても利用できる。この和室空間がある事で、そのスケールからすべてを造作家具で設計するような密度で計画された2階に貴重な余白が生まれた。北側は厳しい高度斜線に切り取られるので開くことが叶わない代わりに、東側の坪庭、南の空を感じる高窓、桜並木側の開口…と3方に開く方法を検討していくなかで、中央に樹木のような構造体を立てていくことにいきついた。
 
 結果として外周部分に壁でふさがれた部分をつくらずに、様々な光を日時計のように提供する開口部をつくることができた。その構造体が連続していく様子と窓の外の桜並木が呼応するようにリズムを生みだし、実際に目で見えている部分の「その向こうまで」連続している桜を意識させていくのだ。

 
 
(廣部剛司)

 
 
 
 
建築概要
名称  :桜並木の家
所在地 :東京都目黒区
主要用途:専用住宅
主体構造:木造 RC造
規模  :地下1階 地上2階
敷地面積: 76.00m2(23.0坪)
建築面積: 45.49m2(13.8坪)
延床面積:116.88m2(35.9坪)
竣工  :2005年4月
 
構造設計:エスフォルム/大内彰
施工  :宗建築
 
 

 
 桜並木のあるところは、以前河川だったところの可能性が高い。この敷地をクライアントと見に伺ったときから分かっていたことだった。それでもこのロケーションの素晴らしさを生活空間の一部にしたい、という強い意志がプロジェクトを前に進めた。案の定、着工後に地下を掘り下げていくなかで大量の水が出てきた。暗渠になっていても地下水脈が生きているというのは凄いことだと感じる一方、なかなか困難な工事となった。水に対してはグルリと地下をくるむように防水をして止め、河川特有の地盤に対しては杭を打つことで安全性を確保していった。
 
 プランニング条件としての難しさは、限られた敷地に日常用とスポーツ走行を楽しむための車、と2台の車をおさめる必要があったことが特徴的だった。そのため、2階の床までをRCでつくり、2方向にオーバーハングさせることで上階の面積は最大限取りながら2台分のガレージを確保することができた。車のサイズというのは平面図に落としてみると思いのほか大きく感じるものだ。それを満たしながら必要な生活空間をつくるには、水が出ることが分かっていても地下工事が必須だったのだ。
 
 最初に桜並木を前にしばらく佇みながら敷地の様子を観察していて気付いたことは、ここがかなり人通りの多い生活道路だと言うことだった。桜の季節には花を愛でながらも、足早に駅に向かって歩いて行く。桜と共にある生活を実現するためには、この通過する人びととの距離感が大きなポイントになるとその時感じたのだ。
 
 一本の桜を愛でるのと、並木状に連続していく桜に向き合うのでは設計の方向が違う。前者はその桜に集中するようにプランニングをしていくことになるけれども、並木状の桜はその「連続性」をどう建築に取り込むかというところがポイントになる。だから水平に連続していく桜の景色を途切れることなく感じていられる方法を探ろうと思った。
 
 道路側からみると開口部の少ない住宅に見える。しかし、道路と反対側(東側)には南北に抜けた坪庭がつくられていて、大きな開口部がそれに面している。そして、2階は目線よりも少し上になる場所までが壁的な要素でつくられ、屋根との間に大きなガラスがはめ込まれているのだ。この断面的な検討の結果、前面道路を行き交う人びとと視線を合わせることなく、生活の一部に常に「連続していく桜並木」を取り込んでいくことが可能となった。桜並木は西側に面しているが、落葉樹である事の恩恵を受けて、夏は葉で覆われることで西日を遮り、冬は葉が落ちることで日没前に貴重な暖かさをもたらしてくれる。熱環境的な意味でも桜並木は大切な設計要素だった。たとえば桜の季節には仲間が集い、美しい花を眺めながら楽しいひとときを過ごす。普段は家族で使えればいいダイニングは、状況によってかなりの人数を受け入れる必要があった。
 
 そこで、バッファーとしての和室を配置した。人数が増えていくとエクステンションできるように製作したテーブルを上げ、さらに人が増えるときは和室にローテーブルを置くことで、一つの食卓がどんどん桜並木の方へ延長していく。そして、開閉式の障子を閉めるとゲスト用の寝室としても利用できる。この和室空間がある事で、そのスケールからすべてを造作家具で設計するような密度で計画された2階に貴重な余白が生まれた。北側は厳しい高度斜線に切り取られるので開くことが叶わない代わりに、東側の坪庭、南の空を感じる高窓、桜並木側の開口…と3方に開く方法を検討していくなかで、中央に樹木のような構造体を立てていくことにいきついた。
 
 結果として外周部分に壁でふさがれた部分をつくらずに、様々な光を日時計のように提供する開口部をつくることができた。その構造体が連続していく様子と窓の外の桜並木が呼応するようにリズムを生みだし、実際に目で見えている部分の「その向こうまで」連続している桜を意識させていくのだ。

 
 
(廣部剛司)

  
 
建築概要
名称  :桜並木の家
所在地 :東京都目黒区
主要用途:専用住宅
主体構造:木造 RC造
規模  :地下1階 地上2階
敷地面積: 76.00m2(23.0坪)
建築面積: 45.49m2(13.8坪)
延床面積:116.88m2(35.9坪)
竣工  :2005年4月
 
構造設計:エスフォルム/大内彰
施工  :宗建築
 

Photo
@Hiro Sakaguchi
@Takeshi Hirobe