針ヶ谷の家
光の閾(しきい)になる境界を探していくこと
比較的密度の高いエリアのなかで、計画地は家族の住まいが点在する大きな敷地の一角で、元々は貸し駐車場となっていた。北側隣地には4階建てのマンション、東面は細かい区画の住宅が建ち並ぶというロケーションのなか、南西側に親族の庭があり、南側の空に対しては広く視界が開けている、ということが計画の拠(よりどころ)となっていく。
当初から設計条件に24時間空調を行うことが盛り込まれていたため、断熱性能上は不利となる開口部は少なめにしてほしいと要望があった。今回採用したのはアクアレイヤーという方式で、床下に温度変化を吸収する蓄 熱体(水のパック)を仕込み、2台のヒートポンプエアコンで床下に吹き 出す方式の全館空調である。床下に敷き詰められた水のパックと、基礎の コンクリートにも蓄熱をすることで1日の温度変化をゆるやかなものにす ることが可能なことから、空調機の負荷が低減される。 建物自体の断熱も充填断熱に外部付加断熱を併用し、樹脂サッシュを採用 することで向上させている。それでも断熱を優先すると、弱点となる開口 部を控えめにしていくことが一つのセオリーにはなるが、密閉されて温度だけが保たれているような環境には以前から違和感を感じていた。 そこで、身体を晒すような直接的な開口部はできるだけつくらない代わりに、間接的に様々な光が射しこむ居場所をつくろうと考えた。2階のLDK が主室となり、天井高も高く(max約3.4m)ボリュームが大きい。そこに 2つの領域(あるいはレイヤー)を設定して意識の上で「外側」の領域に なる壁に、光を導いていくことを考えていった。 導かれた光は1日の推移によって、季節によって、天候の変化によって様 々に変化し続ける。生活しながら常にそれを感じていられることは「地球の一部に住まう」という感覚に繋がっていく。自然に繰り返されるリズムは、そこに住まう人が健やかにいるためには、大切なインフォメーションだと感じている。
一つだけ、空に向けて直接切り取られている窓がある。それは唯一遮られることなく空に繋がる南面の上部に設けられ、ピクチャーウィンドウとして、空の様相を直接届けてくれる。
両側にある垂れ壁は間接的に光を感じさせてくれるが、実はこの部分の開口部には構造ブレースが設けられている。光を抽象化して、そのグラデーションで空間をつくろうとするときに、スチールの構造部材はハードな印象を与えてしまうが、それを見ないようにしつつ、光を感じられるように 考えた部分である。
1階には寝室の他にデザイナーご夫妻のアトリエ空間があり、床が一段下がっていて、土間的な仕上げのワークスペースとなっている。ガレージ部分はこの住宅で唯一、全館空調エリアから外してある場所でDIYが得意な ご主人の作業場を兼ねている。2階にある二つの子供室に向かう途中には 洗濯・乾燥スペースがあり、乾燥機とあわせて使うことでこの部分で作業が一貫するように想定されている。 光はその性質上、直射光だけではなく、反射し、回折し、また拡散して いく。 その結果として生まれる光のグラデーションを常に映し出す器として設計した住宅である。
建築概要
名称 :針ヶ谷の家
所在地 :埼玉県さいたま市
主要用途:専用住宅
主体構造:木造
規模 :地上2階
敷地面積:242.58㎡
建築面積:96.06㎡(28.99坪)
延床面積:188.31㎡(58.85坪)
竣工 :2023年6月
構造設計:構造設計工房デルタ
久田基治
施工 :栃木ハウス
光の閾(しきい)になる境界を探していくこと
比較的密度の高いエリアのなかで、計画地は家族の住まいが点在する大きな敷地の一角で、元々は貸し駐車場となっていた。北側隣地には4階建てのマンション、東面は細かい区画の住宅が建ち並ぶというロケーションのなか、南西側に親族の庭があり、南側の空に対しては広く視界が開けている、ということが計画の拠(よりどころ)となっていく。
当初から設計条件に24時間空調を行うことが盛り込まれていたため、断熱性能上は不利となる開口部は少なめにしてほしいと要望があった。今回採用したのはアクアレイヤーという方式で、床下に温度変化を吸収する蓄 熱体(水のパック)を仕込み、2台のヒートポンプエアコンで床下に吹き 出す方式の全館空調である。床下に敷き詰められた水のパックと、基礎の コンクリートにも蓄熱をすることで1日の温度変化をゆるやかなものにす ることが可能なことから、空調機の負荷が低減される。 建物自体の断熱も充填断熱に外部付加断熱を併用し、樹脂サッシュを採用 することで向上させている。それでも断熱を優先すると、弱点となる開口 部を控えめにしていくことが一つのセオリーにはなるが、密閉されて温度だけが保たれているような環境には以前から違和感を感じていた。 そこで、身体を晒すような直接的な開口部はできるだけつくらない代わりに、間接的に様々な光が射しこむ居場所をつくろうと考えた。2階のLDK が主室となり、天井高も高く(max約3.4m)ボリュームが大きい。そこに 2つの領域(あるいはレイヤー)を設定して意識の上で「外側」の領域に なる壁に、光を導いていくことを考えていった。 導かれた光は1日の推移によって、季節によって、天候の変化によって様 々に変化し続ける。生活しながら常にそれを感じていられることは「地球の一部に住まう」という感覚に繋がっていく。自然に繰り返されるリズムは、そこに住まう人が健やかにいるためには、大切なインフォメーションだと感じている。
一つだけ、空に向けて直接切り取られている窓がある。それは唯一遮られることなく空に繋がる南面の上部に設けられ、ピクチャーウィンドウとして、空の様相を直接届けてくれる。
両側にある垂れ壁は間接的に光を感じさせてくれるが、実はこの部分の開口部には構造ブレースが設けられている。光を抽象化して、そのグラデーションで空間をつくろうとするときに、スチールの構造部材はハードな印象を与えてしまうが、それを見ないようにしつつ、光を感じられるように 考えた部分である。
1階には寝室の他にデザイナーご夫妻のアトリエ空間があり、床が一段下がっていて、土間的な仕上げのワークスペースとなっている。ガレージ部分はこの住宅で唯一、全館空調エリアから外してある場所でDIYが得意な ご主人の作業場を兼ねている。2階にある二つの子供室に向かう途中には 洗濯・乾燥スペースがあり、乾燥機とあわせて使うことでこの部分で作業が一貫するように想定されている。 光はその性質上、直射光だけではなく、反射し、回折し、また拡散して いく。 その結果として生まれる光のグラデーションを常に映し出す器として設計した住宅である。
建築概要
名称 :針ヶ谷の家
所在地 :埼玉県さいたま市
主要用途:専用住宅
主体構造:木造
規模 :地上2階
敷地面積:242.58㎡
建築面積:96.06㎡(28.99坪)
延床面積:188.31㎡(58.85坪)
竣工 :2023年6月
構造設計:構造設計工房デルタ
久田基治
施工 :栃木ハウス
Photo
@Koichi Torimura
process
process