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南品川の家

南品川の家
 
 
予定が変わって、品川に住むことにしたんです。
 
 クライアントは趣味の車(アルファロメオ)を通じて知り合った年上の友人。夫婦2人での生活をクルマと共に謳歌されていた。よく伺っていたのは「今ある房総の別宅をそのうち終の棲家にするから、その時は頼むね」というお話だった。ところがご夫婦が嬉しいことに小さな命を授かることになり、実家に近い品川に住むことにした、というわけである。
 
 候補として選ばれた敷地はコの字型の路地の奥にあった。大きさ16坪。建ぺい率を考えると限界の建坪は9坪。ここまでであれば楽な条件とは言えないまでも、特に難易度が高いという事もない。しかし、クルマ繋がりならではの条件がついた。「この敷地にクルマを2台、特に大切なジュリア(段付きと呼ばれている)は野ざらしにしないように」クルマの大きさというのは住宅の平面図にプロットするとかなり大きく感じる。普段からそう思っているけれども、敷地の小ささもあって、これはなかなか大変なことになったと感じた。土地を買うかどうかの決済期間が短かったためプラン提案の期限は1週間、連日連夜、集中してプランニングを行った。予算上のこともあるから主体構造は木造、地下は無し。防火関係をはじめとする法規制を考えると2階建て+ロフトというのが現実的な規模だった。寝室や水廻りが建ぺい率一杯に建てればなんとか2階フロアに納まることをおさえて、収納などの余白を少しロフトスペースに委ねる。さて、そうなると最後の難題はクルマと共存する必要がある1階である。
 
 自分自身もほのかに憧れていたアルファロメオ・スパイダー(1974年式)を25歳の時に購入。もう長く乗っているからクルマを大切に思う方の気持ちはかなり理解できると思っている。この住宅のクライアントもまだ独立後にそれほど実作がない時点だったけれど、そこを信じて依頼してくれたわけだった。そこで導いた答えは、道路側に普段用のクルマを置き、大切なジュリアは生活空間の一部として「一緒にいてもらおう」ということだった。ただし、ガソリンを燃やす内燃機関を持つクルマ、それも旧いクルマを一緒の空間に入れるにはそれなりの対策が必要になるし、オイルの匂いなどは防ぎようもない。そこで垂直に抜ける坪庭と一体に風が抜けるガレージをつくって、そこと居室の間を完全に開放したり閉じたりできるようにしようと考えた。
 
 そのおかげで内外の境界線が曖昧になり、不思議な開放感のある場ができた。もちろん、ダイニングテーブルやソファを置くようなスペースはつくれないけれど、庭に見立てたガレージと坪庭からは光と風が届けられ周辺環境の雑多さを感じさせない部屋になったと思う。この部屋を「主室」と名づけた。機能としては極小のLDKだけれども、家具工事で掘りごたつのような場をつくって、「居場所」と収納スペースを確保した。ここは言ってみれば、家の中のパブリックスペース。
 
 竣工後、何度もお邪魔しているが近所に住むお子さんの友達が呼び鈴も押さずにバンと入ってきて、いきなり遊び始める。この部屋に至るまで玄関や廊下といったバッファーの空間をつくれなかったのは、ひとえにスペースの問題だったけれども、下町のつきあい方とこの部屋の「開きかた」はうまく相乗効果を生んでいると訪れるたびに感じている。
 
 

(廣部剛司)  

 
 
 
 
建築概要
名称  :南品川の家
所在地 :東京都品川区
主要用途:専用住宅
主体構造:木造
規模  :地上2階
敷地面積:53.92m2(16.3坪)
建築面積: 31.32m2(9.5坪)
延床面積: 53.01+12.56(ロフト)m2(19.8坪)
竣工  :2002年12月
 
構造設計:エスフォルム/大内彰
施工  :アベヒロエ工務店

 
予定が変わって、品川に住むことにしたんです。
 
 クライアントは趣味の車(アルファロメオ)を通じて知り合った年上の友人。夫婦2人での生活をクルマと共に謳歌されていた。よく伺っていたのは「今ある房総の別宅をそのうち終の棲家にするから、その時は頼むね」というお話だった。ところがご夫婦が嬉しいことに小さな命を授かることになり、実家に近い品川に住むことにした、というわけである。
 
 候補として選ばれた敷地はコの字型の路地の奥にあった。大きさ16坪。建ぺい率を考えると限界の建坪は9坪。ここまでであれば楽な条件とは言えないまでも、特に難易度が高いという事もない。しかし、クルマ繋がりならではの条件がついた。「この敷地にクルマを2台、特に大切なジュリア(段付きと呼ばれている)は野ざらしにしないように」クルマの大きさというのは住宅の平面図にプロットするとかなり大きく感じる。普段からそう思っているけれども、敷地の小ささもあって、これはなかなか大変なことになったと感じた。土地を買うかどうかの決済期間が短かったためプラン提案の期限は1週間、連日連夜、集中してプランニングを行った。予算上のこともあるから主体構造は木造、地下は無し。防火関係をはじめとする法規制を考えると2階建て+ロフトというのが現実的な規模だった。寝室や水廻りが建ぺい率一杯に建てればなんとか2階フロアに納まることをおさえて、収納などの余白を少しロフトスペースに委ねる。さて、そうなると最後の難題はクルマと共存する必要がある1階である。
 
 自分自身もほのかに憧れていたアルファロメオ・スパイダー(1974年式)を25歳の時に購入。もう長く乗っているからクルマを大切に思う方の気持ちはかなり理解できると思っている。この住宅のクライアントもまだ独立後にそれほど実作がない時点だったけれど、そこを信じて依頼してくれたわけだった。そこで導いた答えは、道路側に普段用のクルマを置き、大切なジュリアは生活空間の一部として「一緒にいてもらおう」ということだった。ただし、ガソリンを燃やす内燃機関を持つクルマ、それも旧いクルマを一緒の空間に入れるにはそれなりの対策が必要になるし、オイルの匂いなどは防ぎようもない。そこで垂直に抜ける坪庭と一体に風が抜けるガレージをつくって、そこと居室の間を完全に開放したり閉じたりできるようにしようと考えた。
 
 そのおかげで内外の境界線が曖昧になり、不思議な開放感のある場ができた。もちろん、ダイニングテーブルやソファを置くようなスペースはつくれないけれど、庭に見立てたガレージと坪庭からは光と風が届けられ周辺環境の雑多さを感じさせない部屋になったと思う。この部屋を「主室」と名づけた。機能としては極小のLDKだけれども、家具工事で掘りごたつのような場をつくって、「居場所」と収納スペースを確保した。ここは言ってみれば、家の中のパブリックスペース。
 
 竣工後、何度もお邪魔しているが近所に住むお子さんの友達が呼び鈴も押さずにバンと入ってきて、いきなり遊び始める。この部屋に至るまで玄関や廊下といったバッファーの空間をつくれなかったのは、ひとえにスペースの問題だったけれども、下町のつきあい方とこの部屋の「開きかた」はうまく相乗効果を生んでいると訪れるたびに感じている。
 
 

(廣部剛司) 

 
建築概要
名称  :南品川の家
所在地 :東京都品川区
主要用途:専用住宅
主体構造:木造
規模  :地上2階
敷地面積:53.92m2(16.3坪)
建築面積: 31.32m2(9.5坪)
延床面積: 53.01+12.56(ロフト)m2(19.8坪)
竣工  :2002年12月
 
構造設計:エスフォルム/大内彰
施工  :アベヒロエ工務店

Photo
@Takeshi Hirobe

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