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本牧の家

本牧の家
 
 
ゆるやかな光
連続していく空間、その中でおこる光のグラデーション。
この住宅を設計していたときに考えていた大きなポイントである。
 
 そこは静かな場所ではあったけれども、なかなかに難しい敷地条件だった。低層の住宅が続くのは良いのだが、周囲の住宅の窓が様々な方向に向き合っており、ほとんどの家がカーテンを閉めたまま暮らしているような感じだった。もう一つは幅員の狭い前面道路から愛車を敷地に導きやすいように配慮する必要があるという点だった。クルマに愛着のあるクライアントからは当初インナーガレージの希望があったが、敷地条件と予算の点から生活に寄り添うような位置関係で外部にガレージを設けた。して、高い視線からは三渓園をはじめとするいくつかの緑地を望むことができたので、それらに対して開きながらどう建築を構成していくかを考えていた。外部に対して、そう楽観的に開くことができないということは、プランニングに結構な影響をおよぼす。そこで、限られた窓をどうつくり、そこから導かれた光をどう「充満」させるかを考えていたのだ。
 
 ポルトガルを一人旅したときに、強く感じたことがあった。9月に訪れた彼の地には、乾いた気候に刺すような陽光が降り注いでいた。窓が小さく、白い壁という建築が多い理由を私はユーラシア大陸の果てを歩きながら知ることになる。日陰と日向の差が強烈な場所では、光が射す場所と影になる場所は二進法的に1と0のコントラストを生み出す。サングラスをかけていないと目の絞り機能だけでは対応できないような差だ。しかし、小さな窓から入り込んで白い内部空間に充満していく光には、優しくゆるやかなグラデーションがあるのだ。そこには、人が身の置きどころとして「委ねてもいい」と思えるための条件が潜んでいるように感じた。それらを歴史的な建築から、またアルヴァロ・シザの建築から学んだといっていい。
 
 敷地から入庫しやすいガレージの角度などを導いているうちに、建築はまるで「曲がり屋」のように2度折れ曲がって連続していくこととなった。その平面形状で囲い込まれる部分に外部テラスを設け、その前に落葉樹を植えた。そしてその先には三渓園の緑が望めるのだ。外部テラスに面した大きな開口は平面形状と樹木によって半透明の幕がかけられたような安心感をもたらし、スリット状に設けられた開口からは時間に応じた光が射し込み、時の経過と共にだんだんと移り変わっていく。そこに階段室上部に開けられた天窓からの光が強いアクセントを生んでいく。壁天井ともベージュの吹付材、床には色合いが近く柔らかい桐のフローリングで仕上げられた空間には、光の微妙なニュアンスが映り込んでいく。
 
 それぞれの開口と内部の色のトーンのバランスを取ること。そして、それらが一体の空間として感じられる一線を探して、検討を続けていた。
 

(廣部剛司)

 
 
 
 
建築概要
名称  :本牧の家
所在地 :神奈川県横浜市
主要用途:専用住宅
主体構造:木造
規模  :地上2階
敷地面積:157.91m2  
建築面積:50.74m2  
延床面積:89.36m2  
竣工  :2008年3月
 
構造設計:エスフォルム/大内彰
施工  :マナ・アソシエイツ 

 
ゆるやかな光
連続していく空間、その中でおこる光のグラデーション。
この住宅を設計していたときに考えていた大きなポイントである。
 
 そこは静かな場所ではあったけれども、なかなかに難しい敷地条件だった。低層の住宅が続くのは良いのだが、周囲の住宅の窓が様々な方向に向き合っており、ほとんどの家がカーテンを閉めたまま暮らしているような感じだった。もう一つは幅員の狭い前面道路から愛車を敷地に導きやすいように配慮する必要があるという点だった。クルマに愛着のあるクライアントからは当初インナーガレージの希望があったが、敷地条件と予算の点から生活に寄り添うような位置関係で外部にガレージを設けた。そして、高い視線からは三渓園をはじめとするいくつかの緑地を望むことができたので、それらに対して開きながらどう建築を構成していくかを考えていた。外部に対して、そう楽観的に開くことができないということは、プランニングに結構な影響をおよぼす。そこで、限られた窓をどうつくり、そこから導かれた光をどう「充満」させるかを考えていたのだ。
 
 ポルトガルを一人旅したときに、強く感じたことがあった。9月に訪れた彼の地には、乾いた気候に刺すような陽光が降り注いでいた。窓が小さく、白い壁という建築が多い理由を私はユーラシア大陸の果てを歩きながら知ることになる。日陰と日向の差が強烈な場所では、光が射す場所と影になる場所は二進法的に1と0のコントラストを生み出す。サングラスをかけていないと目の絞り機能だけでは対応できないような差だ。しかし、小さな窓から入り込んで白い内部空間に充満していく光には、優しくゆるやかなグラデーションがあるのだ。そこには、人が身の置きどころとして「委ねてもいい」と思えるための条件が潜んでいるように感じた。それらを歴史的な建築から、またアルヴァロ・シザの建築から学んだといっていい。
 
 敷地から入庫しやすいガレージの角度などを導いているうちに、建築はまるで「曲がり屋」のように2度折れ曲がって連続していくこととなった。その平面形状で囲い込まれる部分に外部テラスを設け、その前に落葉樹を植えた。そしてその先には三渓園の緑が望めるのだ。外部テラスに面した大きな開口は平面形状と樹木によって半透明の幕がかけられたような安心感をもたらし、スリット状に設けられた開口からは時間に応じた光が射し込み、時の経過と共にだんだんと移り変わっていく。そこに階段室上部に開けられた天窓からの光が強いアクセントを生んでいく。壁天井ともベージュの吹付材、床には色合いが近く柔らかい桐のフローリングで仕上げられた空間には、光の微妙なニュアンスが映り込んでいく。
 
 それぞれの開口と内部の色のトーンのバランスを取ること。そして、それらが一体の空間として感じられる一線を探して、検討を続けていた。
 

(廣部剛司)

 
 
 
 
建築概要
名称  :本牧の家
所在地 :神奈川県横浜市
主要用途:専用住宅
主体構造:木造
規模  :地上2階
敷地面積:157.91m2  
建築面積:50.74m2  
延床面積:89.36m2  
竣工  :2008年3月
 
構造設計:エスフォルム/大内彰
施工  :マナ・アソシエイツ 

Photo
@Koichi Torimura