浜田山の家
陰翳の深さがもたらすもの
一年を通じて、射し込む光の高さを変えていく太陽の光。それは夏至に最大の高さから射し込み、冬至に最も低い角度へと変化していく。日本の古建築が持つ軒の深さはそんな四季の変遷をうまく建築に取り込むためにも(特に夏の日差しを遮るために)、長い時間をかけて生み出されたものだ。この住宅の敷地に立ったときに、思い起こしたのはそういった建築の成り立ちに立ち戻るような感覚だった。
南北に細長い敷地は、北側に道路があり東西方向は隣家に囲まれていた。しかし、大きな低層マンションの駐車場に面する南面が唯一「空の高い」場所としてあった。最初に考えたのはこの「空」を建築に取り込みたいと言うこと。そして南北に奥行きが深い敷地の北側エリアにも南面の光を導けないだろうか、という思いだった。
空の広い南側に平屋のリビングを配置して、その屋根勾配を冬至の太陽高度に合わせた。これによってリビングの高窓から日差しのほしい冬の時期には最大の陽光が射し込むことになった。同時に、その屋根の上から注ぐ陽光を受け止めるために中庭を配した。その光は中庭に面しているダイニングや2階の子供室にあかりとぬくもりを届けてくれ、外で食事をしたいというクライアントの希望にも合致した。
もう一つの特性である敷地の細長さについて考えていたときに手がかりとなったのも実は「光」だった。奥行きのある敷地を感じさせるために、廊下と階段のスペースから両端にある和室、書斎までを1つの長い視線でつないだ。その先に坪庭などを設けることで視線の先が「外の光」となるように計画している。長い距離を「楽しむ」ためには<抜け>の感覚が必要だと思うからだ。人が<光>を感じるときに、大きなポイントとなるのは対となる<陰翳>のありかただ。それらを「1」「0」という二進法的に操作すれば強烈なコントラストと緊張感を生み出すし、その変化が緩やかになっていくほど両者はグラデーションで繋がっていく。少なくともこのとき、光に対する私の興味は後者のグラデーション的な操作に集中していた。直接の光、反射・回折する光が、日の出から日没までの間に起こす変化。晴天、雨、曇天、雪など天候による変化。そして最初に述べた季節による変化。それら複数のパラメーターが組み合わさることから、1日として同じ光というのは存在しない。限りなく変奏を続けている光を、受け止める建築のあらゆる要素を用いて操作し、住む人がより感じやすいようにしていくこと。それはこの住宅の設計をすすめる中で、常に判断の基準となっていたポイントだった。階段室上部から降り注ぐトップライトの光も、構造耐力壁としての性能を持ちながら、たくさんの「穴」を開けた合板の壁も、中庭やリビングへと導く序章としてあえて低く設定した地窓も、そういった意志から決めていったエレメントだ。
きめの細かい陰翳の操作が生活空間にもたらすものは何か?それは結局のところ「その空間が安心していられる居場所になっている」ということ、また住まう人が変化を続ける地球の「一部」として存在している、ということを感じられることではないかと思えるのだ。
建築概要
名称 :浜田山の家
所在地 :東京都杉並区
主要用途:専用住宅
主体構造:木造
規模 :地上2階
敷地面積:160.83m2
建築面積:74.12m2
延床面積:125.58m2
竣工 :2008年8月
構造設計:エスフォルム/大内彰
施工 :宗建築
陰翳の深さがもたらすもの
一年を通じて、射し込む光の高さを変えていく太陽の光。それは夏至に最大の高さから射し込み、冬至に最も低い角度へと変化していく。日本の古建築が持つ軒の深さはそんな四季の変遷をうまく建築に取り込むためにも(特に夏の日差しを遮るために)、長い時間をかけて生み出されたものだ。この住宅の敷地に立ったときに、思い起こしたのはそういった建築の成り立ちに立ち戻るような感覚だった。
南北に細長い敷地は、北側に道路があり東西方向は隣家に囲まれていた。しかし、大きな低層マンションの駐車場に面する南面が唯一「空の高い」場所としてあった。最初に考えたのはこの「空」を建築に取り込みたいと言うこと。そして南北に奥行きが深い敷地の北側エリアにも南面の光を導けないだろうか、という思いだった。
空の広い南側に平屋のリビングを配置して、その屋根勾配を冬至の太陽高度に合わせた。これによってリビングの高窓から日差しのほしい冬の時期には最大の陽光が射し込むことになった。同時に、その屋根の上から注ぐ陽光を受け止めるために中庭を配した。その光は中庭に面しているダイニングや2階の子供室にあかりとぬくもりを届けてくれ、外で食事をしたいというクライアントの希望にも合致した。
もう一つの特性である敷地の細長さについて考えていたときに手がかりとなったのも実は「光」だった。奥行きのある敷地を感じさせるために、廊下と階段のスペースから両端にある和室、書斎までを1つの長い視線でつないだ。その先に坪庭などを設けることで視線の先が「外の光」となるように計画している。長い距離を「楽しむ」ためには<抜け>の感覚が必要だと思うからだ。人が<光>を感じるときに、大きなポイントとなるのは対となる<陰翳>のありかただ。それらを「1」「0」という二進法的に操作すれば強烈なコントラストと緊張感を生み出すし、その変化が緩やかになっていくほど両者はグラデーションで繋がっていく。少なくともこのとき、光に対する私の興味は後者のグラデーション的な操作に集中していた。直接の光、反射・回折する光が、日の出から日没までの間に起こす変化。晴天、雨、曇天、雪など天候による変化。そして最初に述べた季節による変化。それら複数のパラメーターが組み合わさることから、1日として同じ光というのは存在しない。限りなく変奏を続けている光を、受け止める建築のあらゆる要素を用いて操作し、住む人がより感じやすいようにしていくこと。それはこの住宅の設計をすすめる中で、常に判断の基準となっていたポイントだった。階段室上部から降り注ぐトップライトの光も、構造耐力壁としての性能を持ちながら、たくさんの「穴」を開けた合板の壁も、中庭やリビングへと導く序章としてあえて低く設定した地窓も、そういった意志から決めていったエレメントだ。
きめの細かい陰翳の操作が生活空間にもたらすものは何か?それは結局のところ「その空間が安心していられる居場所になっている」ということ、また住まう人が変化を続ける地球の「一部」として存在している、ということを感じられることではないかと思えるのだ。
建築概要
名称 :浜田山の家
所在地 :東京都杉並区
主要用途:専用住宅
主体構造:木造
規模 :地上2階
敷地面積:160.83m2
建築面積:74.12m2
延床面積:125.58m2
竣工 :2008年8月
構造設計:エスフォルム/大内彰
施工 :宗建築
Photo
@Koichi Torimura
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