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Barcarolle
特殊構造   坪庭   大開口   混構造

 

Barcarolle
 
 
 最初の打合の後、アトリエに一枚のCDが届けられた。
「この音楽が似合う空間を」という意味で送られてきたのはブライアン・イーノのCDであった。
 
 解体前の旧家屋屋上からは意外な程近くに新宿副都心が望めた、そして、その眺望を最大限に生かすべく3階レベルはガラスの箱とすることが求められた。
 
 立体路地的な性格を宿した外部階段を共有した二世帯住宅であるが、1階親世帯は出来るだけそれぞれコンパクトに使える独立した居室が求められ、2階世帯は都市に対して開く大きな空間が求められた。3階のペントハウス的に都市に浮いたガラスの箱に対し、それ以外の2層は壁構造のコンクリートによって<守られた>部分として、その上に軽い鉄骨架構をフワッとかけ
 
 その構成を見ながら頭に浮かんだのはショパンのBarcarolle(舟唄)だった。水上を揺らぐようなリズムに様々な要素が展開するその音楽には、短かったけれども素晴らしい音楽を数多く残したショパンの人生が凝縮されているように感じていた。そして、この住宅は守られたキャビンと浮遊するデッキを持った一艘の船であり、これから此処に住まう家族を乗せて旅に出るのだ、と云うイメージがそれに重なり、この家をBarcarolle(バルカローレ)と名付けた。
 
 いつも考えるのは、建築が<そこにある>ことによって、実は身近に溢れている地球の素晴らしさを<より感じやすく>することが出来ないだろうかと言うこと。だからクライントには「ここから満月が上ります」(ガラスの箱は2階から空に向けての視線をも提供してくれる)「その月を水盤に映して楽しんでください」「夕方にはこんな光」・・・と設計中から説明をし続けた。一日の動きや季節によって、光がどんなルートをたどってどういう光と陰を空間にもたらすのか・・・それを考えながら設計をしていて、ついぞ工事中に実際見ることが出来なかった光景があった。しかし、引越が済んでしばらくした頃、奥様がその瞬間のことを話して下さった。
 
「寝室にいると夜明けの時間帯、丸いガラスブロックに順番に朝日が差していくんですよ」その寝室にはお引渡し前日に誕生されたお子さんが一緒に寝ている。その子が10歳になればこの建築も10年。これからどんなアンサンブルを奏でていくのか、ゆっくりと見守っていきたいと思っている。眺望のために都市を望むガラスの箱を創るに当たって、最初に考えたのは耐力壁やブレースを使わずにふわりと屋根を浮かして、そこにガラスを嵌め込むという発想だった。様々な可能性を模索しつつ、最終的には3Dデータを構造家の大内氏とやりとりしながら現在の斜め柱で構成する方法に行き着いた。恣意的に<揺らぎ>を考えながら決めた物を、バランス良く水平力を負担出来るよう、メールで修正して貰いながら考えていたのは、<揺らぎ>によって柱であるという既成概念を少しでも溶融する事が出来ないか・・・ということであった。
 
 又、空間の抽象性を増幅するために下部は床に埋め込んだH鋼にジョイントし、上部は溝形鋼で挟みこむことによって柱自体にジョイントが見えないよう配慮している。視覚的に遮断することも出来るよう床下にロールスクリーンを設置。空調はガスエアコンを用いて冷房時は上部ルーバーから、暖房時は床下に吹きだし、ガラス面近くのFRPグレーチングから開放している。厳しい高度斜線から導き出された天井高は、結果として日本間的なスケール感をもたらし、床にぺたんと座ると都市に浮遊する茶室のような感覚を楽しむことが出来る。
 
 

(廣部剛司)

 
 
 
 
 
 
建築概要
名称  :Barcarolle
所在地 :東京都中野区
主要用途:専用住宅(二世帯)
主体構造:RC造+鉄骨造
規模  :地上3階
敷地面積:214.84m2(64.9坪)
建築面積:118.85m2(35.9坪)
延床面積:234.59m2(70.8坪)
竣工  :2002年9月
 
構造設計:エスフォルム/大内彰
施工  :岡建工事株式会社
 
 
 

  
  最初の打合の後、アトリエに一枚のCDが届けられた
「この音楽が似合う空間を」という意味で送られてきたのはブライアン・イーノのCDであった。
 
 解体前の旧家屋屋上からは意外な程近くに新宿副都心が望めた、そして、その眺望を最大限に生かすべく3階レベルはガラスの箱とすることが求められた。
 
 立体路地的な性格を宿した外部階段を共有した二世帯住宅であるが、1階親世帯は出来るだけそれぞれコンパクトに使える独立した居室が求められ、2階世帯は都市に対して開く大きな空間が求められた。3階のペントハウス的に都市に浮いたガラスの箱に対し、それ以外の2層は壁構造のコンクリートによって<守られた>部分として、その上に軽い鉄骨架構をフワッとかけ
 
 その構成を見ながら頭に浮かんだのはショパンのBarcarolle(舟唄)だった。水上を揺らぐようなリズムに様々な要素が展開するその音楽には、短かったけれども素晴らしい音楽を数多く残したショパンの人生が凝縮されているように感じていた。そして、この住宅は守られたキャビンと浮遊するデッキを持った一艘の船であり、これから此処に住まう家族を乗せて旅に出るのだ、と云うイメージがそれに重なり、この家をBarcarolle(バルカローレ)と名付けた。
 
 いつも考えるのは、建築が<そこにある>ことによって、実は身近に溢れている地球の素晴らしさを<より感じやすく>することが出来ないだろうかと言うこと。だからクライントには「ここから満月が上ります」(ガラスの箱は2階から空に向けての視線をも提供してくれる)「その月を水盤に映して楽しんでください」「夕方にはこんな光」・・・と設計中から説明をし続けた。一日の動きや季節によって、光がどんなルートをたどってどういう光と陰を空間にもたらすのか・・・それを考えながら設計をしていて、ついぞ工事中に実際見ることが出来なかった光景があった。しかし、引越が済んでしばらくした頃、奥様がその瞬間のことを話して下さった。
 
「寝室にいると夜明けの時間帯、丸いガラスブロックに順番に朝日が差していくんですよ」その寝室にはお引渡し前日に誕生されたお子さんが一緒に寝ている。その子が10歳になればこの建築も10年。これからどんなアンサンブルを奏でていくのか、ゆっくりと見守っていきたいと思っている。眺望のために都市を望むガラスの箱を創るに当たって、最初に考えたのは耐力壁やブレースを使わずにふわりと屋根を浮かして、そこにガラスを嵌め込むという発想だった。様々な可能性を模索しつつ、最終的には3Dデータを構造家の大内氏とやりとりしながら現在の斜め柱で構成する方法に行き着いた。恣意的に<揺らぎ>を考えながら決めた物を、バランス良く水平力を負担出来るよう、メールで修正して貰いながら考えていたのは、<揺らぎ>によって柱であるという既成概念を少しでも溶融する事が出来ないか・・・ということであった。
 
 又、空間の抽象性を増幅するために下部は床に埋め込んだH鋼にジョイントし、上部は溝形鋼で挟みこむことによって柱自体にジョイントが見えないよう配慮している。視覚的に遮断することも出来るよう床下にロールスクリーンを設置。空調はガスエアコンを用いて冷房時は上部ルーバーから、暖房時は床下に吹きだし、ガラス面近くのFRPグレーチングから開放している。厳しい高度斜線から導き出された天井高は、結果として日本間的なスケール感をもたらし、床にぺたんと座ると都市に浮遊する茶室のような感覚を楽しむことが出来る。
 
 

(廣部剛司)

 
 
建築概要
名称  :Barcarolle
所在地 :東京都中野区
主要用途:専用住宅(二世帯)
主体構造:RC造+鉄骨造
規模  :地上3階
敷地面積:214.84m2(64.9坪)
建築面積:118.85m2(35.9坪)
延床面積:234.59m2(70.8坪)
竣工  :2002年9月
 
構造設計:エスフォルム/大内彰
施工  :岡建工事株式会社
 

Photo
@Hiro Sakaguchi
@Takeshi Hirobe