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L → I  (L to i)

L → I  (L to i)
 
敷地のほぼ中央に計画道路線が通っているという条件の二世帯住宅です。そのため道路側は構造の制限と共に、計画道路が施行されたときに解体ができる方法で設計をする必要がありました。実はこの住宅には「幻の基本設計案」があります。優先的計画道路に指定されているわけではないため、この場所が実際道路になる可能性は低い、という判断から定められた構造制限の範囲内で全体を解体する前提の設計が一度はなされたのです。それは3階建てで路地的な中庭を内包したプランでした。しかし、リスクを考えていくときに、時間と労力と費用を費やした建築がすべてなくなってしまう可能性があるというのは、やはり心情的にも厳しいものがありました。そこでクライアントとの話し合いの結果、計画道路が施行されたあとも存続できる建築のあり方を模索していくこととなりました。
 
 もともとこの場所で、親世帯は蕎麦店を営んでおられました。この計画は、蕎麦店をしめて息子さん世帯と同居する住宅を作るというところからスタートしているのです。しかし、永年この地で蕎麦店を運営していた生活のリズムもあり、ひょっとしたら小さな、こぢんまりとした「蕎麦屋」を再開する可能性を残すことが条件となりました。つまり計画道路線の通った26坪の敷地に、二世帯住宅をつくること、そして小さな蕎麦店としての運営も可能性が持てることが条件となったのです。
 
 様々なスタディの結果、計画道路にかからない部分を3階建てとして、計画道路部分には平屋のボリュームを作ることになりました。全体の床面積のうち解体せざるを得ない面積を最小にすることから選び取られた方法ですが、同時に平屋部分の上部をテラスとし、子世帯が使うことで限られた室内面積を拡張するための「余白」をつくり出すことも狙いでした。親世帯には蕎麦店として使うときにも有効な路地を設けました。ここに株立ちのアオダモを植え、坪庭的に感じられる空間をつくると同時に、子世帯側のアプローチからFRPグレーチングと共に干渉帯として機能するように考えています。道路側の大きな開口は店舗になったときのための対策でもありますが、北側の落ち着いた光を1日にわたって導くために設けています。
 
親世帯では路地(坪庭)の部分が都市との間の干渉帯として機能しますが、子世帯では1階の玄関と階段室の部分がプライベートな空間へと移行するための立体路地の役割を担わせています。船舶ロープが光を拡散していく階段室は子世帯にとっての内部にある「外的」な場所として考えています。そのため、比較的大きな開口部を取って、階段越しに光や風を居室部分に導こうとしています。また、夏・冬、それぞれの時期に室内環境をコントロールするため、天井扇と開口部の配置を決めています。LDKでは、小さな面積をカバーするために、テラス側のサッシュは全面開放できるようにしています。デッキ材で作成した椅子とテーブルがいつも見えることとの相乗効果で、常にそこが「自分たちの領域」であると感じられるようにしたいと思いました。3階の寝室と子供スペースは逆に、天井も抑え気味に設定し、より親密感の生まれるスケール感を目指しています。
 
防火地域である事から耐火建築物が法的に求められています。但し、計画道路部分はRCで作ることが出来ない。そこで、全体を鉄骨造として計画し、耐火被覆で覆っています。構造フレームはスペース的な厳しさもあるため、細い部材で構成されています。階段室の外には小さなテラスがあり、サービスバルコニー的に使われますが、実はこの部分の鉄骨は構造上重要な役割を担っています。
 
タイトルの「L → I  (L to i)」というのは計画道路の施行時に建築の断面がL型からI型に変化することを現すと同時に、i(私)のための「L」という意味を込めています。もしも何十年後かに計画道路が施行されたとき、平屋部分は撤去され、テナント的な使い方になることでしょう。その間には家族のカタチも変わっているかも知れません。都市的な要因で変わっていくこと。それから長い期間に起こっていく家族の変遷。それぞれの変化を、ある「緩やかさ」で許容していく建築のあり方を考えながら設計した住宅です。
 

(廣部剛司)

 
建築概要
名称  :L → I  (L to i)
所在地 :東京都調布市
主要用途:専用住宅
主体構造:鉄骨造
規模  :地上3階
敷地面積:86.68㎡(26.26坪)
建築面積:57.24㎡(17.34坪)
延床面積:132.84㎡(40.25坪)
竣工  :2014年4月 
構造設計:有限会社 エスフォルム
施工  :山菱工務店

 
敷地のほぼ中央に計画道路線が通っているという条件の二世帯住宅です。そのため道路側は構造の制限と共に、計画道路が施行されたときに解体ができる方法で設計をする必要がありました。実はこの住宅には「幻の基本設計案」があります。優先的計画道路に指定されているわけではないため、この場所が実際道路になる可能性は低い、という判断から定められた構造制限の範囲内で全体を解体する前提の設計が一度はなされたのです。それは3階建てで路地的な中庭を内包したプランでした。しかし、リスクを考えていくときに、時間と労力と費用を費やした建築がすべてなくなってしまう可能性があるというのは、やはり心情的にも厳しいものがありました。そこでクライアントとの話し合いの結果、計画道路が施行されたあとも存続できる建築のあり方を模索していくこととなりました。
 
 もともとこの場所で、親世帯は蕎麦店を営んでおられました。この計画は、蕎麦店をしめて息子さん世帯と同居する住宅を作るというところからスタートしているのです。しかし、永年この地で蕎麦店を運営していた生活のリズムもあり、ひょっとしたら小さな、こぢんまりとした「蕎麦屋」を再開する可能性を残すことが条件となりました。つまり計画道路線の通った26坪の敷地に、二世帯住宅をつくること、そして小さな蕎麦店としての運営も可能性が持てることが条件となったのです。
 
 様々なスタディの結果、計画道路にかからない部分を3階建てとして、計画道路部分には平屋のボリュームを作ることになりました。全体の床面積のうち解体せざるを得ない面積を最小にすることから選び取られた方法ですが、同時に平屋部分の上部をテラスとし、子世帯が使うことで限られた室内面積を拡張するための「余白」をつくり出すことも狙いでした。親世帯には蕎麦店として使うときにも有効な路地を設けました。ここに株立ちのアオダモを植え、坪庭的に感じられる空間をつくると同時に、子世帯側のアプローチからFRPグレーチングと共に干渉帯として機能するように考えています。道路側の大きな開口は店舗になったときのための対策でもありますが、北側の落ち着いた光を1日にわたって導くために設けています。
 
親世帯では路地(坪庭)の部分が都市との間の干渉帯として機能しますが、子世帯では1階の玄関と階段室の部分がプライベートな空間へと移行するための立体路地の役割を担わせています。船舶ロープが光を拡散していく階段室は子世帯にとっての内部にある「外的」な場所として考えています。そのため、比較的大きな開口部を取って、階段越しに光や風を居室部分に導こうとしています。また、夏・冬、それぞれの時期に室内環境をコントロールするため、天井扇と開口部の配置を決めています。LDKでは、小さな面積をカバーするために、テラス側のサッシュは全面開放できるようにしています。デッキ材で作成した椅子とテーブルがいつも見えることとの相乗効果で、常にそこが「自分たちの領域」であると感じられるようにしたいと思いました。3階の寝室と子供スペースは逆に、天井も抑え気味に設定し、より親密感の生まれるスケール感を目指しています。
 
防火地域である事から耐火建築物が法的に求められています。但し、計画道路部分はRCで作ることが出来ない。そこで、全体を鉄骨造として計画し、耐火被覆で覆っています。構造フレームはスペース的な厳しさもあるため、細い部材で構成されています。階段室の外には小さなテラスがあり、サービスバルコニー的に使われますが、実はこの部分の鉄骨は構造上重要な役割を担っています。
 
タイトルの「L → I  (L to i)」というのは計画道路の施行時に建築の断面がL型からI型に変化することを現すと同時に、i(私)のための「L」という意味を込めています。もしも何十年後かに計画道路が施行されたとき、平屋部分は撤去され、テナント的な使い方になることでしょう。その間には家族のカタチも変わっているかも知れません。都市的な要因で変わっていくこと。それから長い期間に起こっていく家族の変遷。それぞれの変化を、ある「緩やかさ」で許容していく建築のあり方を考えながら設計した住宅です。
 

(廣部剛司)

 
建築概要
名称  :L → I  (L to i)
所在地 :東京都調布市
主要用途:専用住宅
主体構造:鉄骨造
規模  :地上3階
敷地面積:86.68㎡(26.26坪)
建築面積:57.24㎡(17.34坪)
延床面積:132.84㎡(40.25坪)
竣工  :2014年4月 
構造設計:有限会社 エスフォルム
施工  :山菱工務店

Photo
@Koichi Torimura