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ARビル

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「守ろう」としたもの
 
 人が認識する建築のスケール感についてよく考える。もちろん面積や階数、高さなどによるスケールは「そのもの」の存在として、明確に情報として入ってくる。しかし、ここで言っているのはそういった条件面から来るスケール感とは異質なものだ。様々な規模の建築において横断的にそのことを考えているが、ここで「守ろう」と思っていたことも、実はその部分と深く関わっている。
 
 敷地はJR線と南北線が交叉する王子の駅前。かなり雑然とした界隈の一角にある。幅員30mの明治通り側にはバス停があり、通りを挟んだ反対側は駅前公園というロケーションだ。クライアントは所有していた明治通り側の敷地に奥の敷地を買い足されて、合筆。一つになった敷地にある程度の規模を持つテナントビルの計画をしているということで当方にご相談があった。
 
 簡易な規模算定と事業収支を作成しながら、現在の規模で落ち着いたのだが、その時全体規模を決めていたのは主に避難バルコニーが必要かどうか、避雷針の必要性等といった法規制の関係や事業収支と照らし合わせた全体コストの試算だった。そして、地盤調査結果から杭工事の必要性が当初からあったため、建物自体を軽量なものにすることも条件として上がっていった。純粋なS造として計画したのはこのように敷地条件の整理から決まっていったことだった。法規制が厳しくなることもあり高さを20m未満に抑えることも作用して、天井から上階の床までの寸法、いわゆるフトコロを抑え、内部容積を確保しようという意図があり、短いスパンで柱を配置した。これによって各階の梁と柱は小さい寸法で計画することが可能となり、細長い敷地の幅方向もギリギリまで使えることとなった。また、明治通り側のファサード面にエレベーターを設けるとテナント間口が小さくなるために、角地である敷地の特性を生かして奥に配置している。また、エレベーターシャフトもガラス開口とすることで、その位置の視認性を上げようとしている。
 
 仕上げ材料に関してはS造であることもあり、基本的にドライな材料で構成している。外壁は成形セメント板が下地となっており、リブ付きのランダムなパネルはコーティングを施しただけの素地で使用。その他はタイルの下地となっている。いずれは見えなくなるであろう南面(隣地側)の外壁にはクライアントの希望でメンテナンスの容易なタイルが貼られている。建築の構成的な特性としては鉄骨に成型パネルなので全周ほぼ均等な条件でつくることも出来るが、ここではあえて仕上げ種別を変えることでの<意味づけ>を試みている。まず、明治通り側隣地の壁、北東道路側の1スパン、そしてEVシャフトの背面。この3カ所に素焼きの風合いを持つタイルで内外に「壁」をつくっている。実際はPSや耐震要素としても使われているが、建築的意味合いとしてはそれ自体が聳立(しょうりつ)する強い壁であってほしいと思った。そして、それに挟み込まれることによって支えられているように、リブ付きのセメント板と開口部が配置されている。ここではコストダウンの意味合いもあり、サッシュ面はカーテンウォールとせずに各階ごとに設置の単独サッシュとしている。また、ランニングコストを下げるためブラインドを実装した上でペアガラスを採用している。
 
 ここまでは、どの道を選び取るか? という部分においての選択はいくつもあるけれども比較的<自動書記>のように様々な条件が内容を描かせているような感覚があった。しかし、設計が進むにつれ、その中に<ゆらぎ>を与えるような小さなスケールのカタチを混在させたいと思うようになった。そこで、そのままでは単純に見える可能性のある明治通り側コーナーに厚板のアルミでルーバーを設け、窓開口の部分は粗に、層間は密になるようなリズムを設定して高さ方向の見えがかりを揺さぶろうとしている。そしてさらにそのルーバーにかなり細かいパターンで穴あけ加工を施すことによって、もう一つ細分化されたスケール感をこのビルにもたらそうと考えたのだ。
 
 冒頭で、「守ろう」としたと書いたのはこのように、細分化されたスケール感を建築に刻んでいくことによって、より身体感覚に近い要素を持ち込もうとした、と言い換えてもいい。建築を人のスケールに引き戻すための一つの道筋が、そこにはあるように思えてならない。
 

(廣部剛司)

 
 
 
 
建築概要
名称  :ARビル
所在地 :東京都北区王子
主要用途:テナントビル
主体構造:S造
規模  :地上5階
敷地面積: 121.85m2 (36.92坪) 
建築面積: 96.19m2 (29.1坪) 
延床面積: 455.42m2 (138.0坪) 
竣工  :2011年1月
 
構造設計:エスフォルム/大内彰
設備設計:スリーク
 
施工  :佐藤秀

 
「守ろう」としたもの
 
 人が認識する建築のスケール感についてよく考える。もちろん面積や階数、高さなどによるスケールは「そのもの」の存在として、明確に情報として入ってくる。しかし、ここで言っているのはそういった条件面から来るスケール感とは異質なものだ。様々な規模の建築において横断的にそのことを考えているが、ここで「守ろう」と思っていたことも、実はその部分と深く関わっている。
 
 敷地はJR線と南北線が交叉する王子の駅前。かなり雑然とした界隈の一角にある。幅員30mの明治通り側にはバス停があり、通りを挟んだ反対側は駅前公園というロケーションだ。クライアントは所有していた明治通り側の敷地に奥の敷地を買い足されて、合筆。一つになった敷地にある程度の規模を持つテナントビルの計画をしているということで当方にご相談があった。
 
 簡易な規模算定と事業収支を作成しながら、現在の規模で落ち着いたのだが、その時全体規模を決めていたのは主に避難バルコニーが必要かどうか、避雷針の必要性等といった法規制の関係や事業収支と照らし合わせた全体コストの試算だった。そして、地盤調査結果から杭工事の必要性が当初からあったため、建物自体を軽量なものにすることも条件として上がっていった。純粋なS造として計画したのはこのように敷地条件の整理から決まっていったことだった。法規制が厳しくなることもあり高さを20m未満に抑えることも作用して、天井から上階の床までの寸法、いわゆるフトコロを抑え、内部容積を確保しようという意図があり、短いスパンで柱を配置した。これによって各階の梁と柱は小さい寸法で計画することが可能となり、細長い敷地の幅方向もギリギリまで使えることとなった。また、明治通り側のファサード面にエレベーターを設けるとテナント間口が小さくなるために、角地である敷地の特性を生かして奥に配置している。また、エレベーターシャフトもガラス開口とすることで、その位置の視認性を上げようとしている。
 
 仕上げ材料に関してはS造であることもあり、基本的にドライな材料で構成している。外壁は成形セメント板が下地となっており、リブ付きのランダムなパネルはコーティングを施しただけの素地で使用。その他はタイルの下地となっている。いずれは見えなくなるであろう南面(隣地側)の外壁にはクライアントの希望でメンテナンスの容易なタイルが貼られている。建築の構成的な特性としては鉄骨に成型パネルなので全周ほぼ均等な条件でつくることも出来るが、ここではあえて仕上げ種別を変えることでの<意味づけ>を試みている。まず、明治通り側隣地の壁、北東道路側の1スパン、そしてEVシャフトの背面。この3カ所に素焼きの風合いを持つタイルで内外に「壁」をつくっている。実際はPSや耐震要素としても使われているが、建築的意味合いとしてはそれ自体が聳立(しょうりつ)する強い壁であってほしいと思った。そして、それに挟み込まれることによって支えられているように、リブ付きのセメント板と開口部が配置されている。ここではコストダウンの意味合いもあり、サッシュ面はカーテンウォールとせずに各階ごとに設置の単独サッシュとしている。また、ランニングコストを下げるためブラインドを実装した上でペアガラスを採用している。
 
 ここまでは、どの道を選び取るか? という部分においての選択はいくつもあるけれども比較的<自動書記>のように様々な条件が内容を描かせているような感覚があった。しかし、設計が進むにつれ、その中に<ゆらぎ>を与えるような小さなスケールのカタチを混在させたいと思うようになった。そこで、そのままでは単純に見える可能性のある明治通り側コーナーに厚板のアルミでルーバーを設け、窓開口の部分は粗に、層間は密になるようなリズムを設定して高さ方向の見えがかりを揺さぶろうとしている。そしてさらにそのルーバーにかなり細かいパターンで穴あけ加工を施すことによって、もう一つ細分化されたスケール感をこのビルにもたらそうと考えたのだ。
 
 冒頭で、「守ろう」としたと書いたのはこのように、細分化されたスケール感を建築に刻んでいくことによって、より身体感覚に近い要素を持ち込もうとした、と言い換えてもいい。建築を人のスケールに引き戻すための一つの道筋が、そこにはあるように思えてならない。
 

(廣部剛司)

 
 
 
 
建築概要
名称  :ARビル
所在地 :東京都北区王子
主要用途:テナントビル
主体構造:S造
規模  :地上5階
敷地面積: 121.85m2 (36.92坪) 
建築面積: 96.19m2 (29.1坪) 
延床面積: 455.42m2 (138.0坪) 
竣工  :2011年1月
 
構造設計:エスフォルム/大内彰
設備設計:スリーク
 
施工  :佐藤秀

Photo
@Koichi Torimura

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